言っておくが性犯罪に繋がるぞ

クソと名の付くものには色々ある。クソアニメ、クソ映画、クソ漫画……
せっかくの真KOTYにおいて、他分野のクソを業者スレ同等に推薦する試みは無きに等しい。
一度ネタスレの概念を捨て、特定ジャンルのクソを本気で紹介するのも一興ではないだろうか。
この選評で紹介するのは「学習漫画界のKOTY」と呼ぶべき代物である。

「新マンガゼミナール 日本史近現代(パワーアップ版)」は2008年に学研から発行された高校生向けの学習漫画である。
「マンガゼミナール」は社会科に限定した学習漫画レーベルであり、「現代社会」「倫理」などのシリーズ作品が存在する。著者や漫画担当者は書籍によって異なり、この選評では「日本史近現代」のみを扱う。
「新」「パワーアップ版」とある通り、本書は2015年にリニューアルされている。10年以上の長きに渡って発行されている長寿タイトルと言える。
※なお、筆者が検証に使用したのは2017年発行の第5版である。

長い歴史のある書籍ならば、信頼できるクオリティが期待される。まして、学習漫画の老舗である学研が出しているのであれば尚更だろう。
だが蓋を開けてみれば、10年も増刷されている事実に疑問を感じる事うけあいである。


●表紙
本書を手に取って真っ先に目に入るカバーイラストは、坂本竜馬の躍動感ある一閃である。
背景にはローアングルのマッカーサー、そびえたつ「太陽の塔」など、近現代を象徴する出来事がシリアスに描かれている。デッサン力も高く、まるでNHKのドキュメンタリーを見ているかのような興奮をもたらしてくれる。裏表紙に書かれた大正の女学生・平成の女の子の対比も可愛らしく、クオリティは高い。とてもKOTY相当の作品には思えないことだろう。

当然である。このカバーイラストの作者は漫画本編に一切関わっていないのだ。

本編の作画はというと、お世辞にも上手いとは言えないクオリティである。
その作画は「まんがタイム」系列に載っているようなデフォルメ調の強い画風であり、表紙にあった躍動感は一切見られない。
画力に関しては「透明なゆりかご」以上「とっても!ラッキーマン」以下と言えばわかりやすいだろうか(例えがわかりづらいと感じた方は、この2作品の名前で検索してほしい。比較対象に挙がること自体が間違いである)。
ついでに言うと、表紙に作中のオリジナルキャラクターは一切登場しない。裏表紙で歩いている女の子たちは、本編で影も形もない。

この手法は他の「マンガゼミナール」シリーズでも行われている。表紙はpixivのランキングに載りそうな一線級のイラストレーターが担当しているのに、中身の画風は共通して「まんがタイム」相当である。
本筋からは逸れるが、集英社もこの直前に似たような阿漕な方法で学習漫画を売っている。「あの有名漫画家が集英社の学習漫画をリニューアル!」と謳っておきながら、広告をよく見ると”表紙だけ”リニューアルした旨がちゃっかりと書かれている。おそらく、学研もこの商法に便乗したのだろう。
いずれにせよ、本書は「羊頭狗肉」以外の何物でもなく、「学習漫画版ビビッドアーミー」と言って差し支えない。本を開けるまで中身が明かされない点は、集英社よりも悪質と言える。

ただし、これは本書の問題としては序の口に過ぎない。同じく表紙詐欺をした他のシリーズ作品は、学習漫画としては問題無い出来である。一部、アクの強いキャラクターや画力の問題はあるものの、学習漫画であることを加味すれば十分許容範囲内にある。
だが「日本史近現代」に限っては許容できるラインを逸脱しており、リニューアルを抜きにして問題点が多い。


●プロローグ
主人公は、毎朝新聞の新人OLジャーナリスト。スクープを取得するため、タイムマシンに載って各地の時代に取材に向かう……というのが、主な筋書きである。

冒頭には9ページに渡るプロローグが入るのだが、この時点で不穏な要素が多い。
まずは作画。先述の通り、高いクオリティの表紙にwktkさせられた読者は拍子抜けすることだろう。
選評筆者はこれ以前に同じレーベルの作品を数冊読んでいるが、他のシリーズは「コミックハルタ」「コミックフラッパー」「コミックビーム」当たりのギャグ漫画にありがちな程度の画力は保証されている。だが本書はそれらと比べてもクオリティが低い。全体的に線が汚く、背景はほとんどトーンで誤魔化していて、構図もメリハリが無くて見づらい。学習漫画という媒体を加味しても違和感が見受けられる。
とはいえ、絵が下手なだけなら問題ない。後述するが、この作画はページをめくるにつれてさらなる悪化を見せていく。

続いて、プロローグの内容をできるだけ作中そのままの形で紹介する。

舞台は「毎朝新聞」のオフィス。
編集局長の権田は険しい顔つきでホワイトボードを叩き、「なぜウチの新聞が売れないのか」と部下に愚痴をこぼす。迫られた軍事オタクの社会部記者・丸山は「クラウゼヴィッツの戦争論にも書いてない」と困惑の様子。横で話を聞いていた美人記者・仁科と、ハーフの経済部記者・坂本は「スクープを取るべきだ」と口をそろえて言う。
部数を伸ばすにはスクープしかない――――――そこで権田は「歴史スクープ班」を設立したという。ホワイトボードに張り付けられた洋式便器の写真を指し「見ての通りこれはタイムマシンだ」と権田。「ええええええ!!トイレじゃないですか」と突っ込む一同。
「驚くのも無理はない。俺も最初は信じられなかった。しかし本当だ!」権田は周囲の困惑をものともせず続ける。
「政府が内密で組織した歴史捜査班などは、これを利用して本格的な歴史事実の確認作業を行い始めているらしい」
「そのトイレに座るんですか?」
「いや、ここから入り別の時代のトイレに出ることができるらしい」
「入るの!?」
「平賀源内の子孫にあたる人物が、発明したようだ」
権田は続ける。
「そこで肝心なのはここからだ!なんと我が社は民間企業としては初めてこのマシンの独占利用契約を結ぶことに成功した」
「えっ!てことはこのトイレで、いやタイムマシンで歴史の名場面の記事を書くわけですか?」
「そうだ!」
(中略)
「そ、それで誰がこのトイレに入るんですか?」(ここで丸山が手を挙げるが、何故かシカトされている)
その時、オフィスのドアを開けて本作の主人公・明智が入ってくる。
「すすすすいません!寝坊しました〜!」
そのまま転倒した明智を見て、丸山を除く3人は心の中でつぶやく。「決定!!!」
(丸山は何故かシカトされている)こうして明智が大任を任される事となった。

「わわわ私がですかー!」
「そうだ」
「私が歴史スクープ班なんですか?なんで私が?」慌てる明智。
「落ち着けポ」なだめる鳥。
「みんな忙しいんだ。どこの部署にも属していないのは、今日から配属されるお前しかいないからな。がんばれよ」(引き続き後ろでシカトされる丸山)
唐突な頼みに明智は戸惑いながら拒否しようとするが、権田が強い圧をかけてきたため、仕方なく承諾。
明智は涙目で「私歴史とかあんまり詳しくないんですけど大丈夫でしょうか?」と訴える。
「あぁ、お前がアホなのは知っている。そこでだ」(傷つく明智)
権田は、他の社員とVRで通信できるコンタクトを手渡す。これを使うことで他4人の社員が立体映像で登場し、解説をしてくれるらしい。

かくして、洋式便器型トイレの前に案内される明智。彼女はドン引きして困惑するも、権田は無理やり中に突き落とす。
「なんで、なんでトイレなんですかぁぁ」
泣きそうな顔で明智は異空間に吸い込まれていく。
「キュータもついていってくれ!」
「了解ポ」鳥も明智を追ってトイレに入る。
「がんばれ新人!!」権田の声でプロローグは幕を閉じる。


私はこれ以前にシリーズを4冊読んできたが、プロローグを読んでまず思った。
「あれ、今回の奴ヤバくない?」
学習漫画でありながら、漫画としてのクオリティに不安を感じさせるには十分な9ページなのである。

まず、洋式便器型タイムマシン。劇中ではとっておきのギャグかのような扱いを受けているが、これの何が面白いのだろうか。
(もしかすると思わず笑った人もいるかもしれないが、文章だけだからシュールに感じるのであって、実際の雑な作画と併せてみると薄ら寒く感じるだけである)
わずか4ページ目で取ってつけたような下ネタが出てきて、もう困惑しか無い。
『でんぢゃらすじーさん』の曽山一寿先生曰く「児童向け漫画家にはウンコの使い所を分かっている作者と、出せば面白いと勘違いしている作者がいる」とのことだが、この作者は間違いなく後者だろう。直前まで個性豊かな大人達が新聞の話をしていたのに、唐突に小学生レベルのギャグを差し込まれるのはポカンとするばかりである。
本書はコロコロコミックなどの児童書と違い、大学受験向けの書籍である。女子高生も読む漫画である。仮に面白いギャグだったとしても、ユーザー層をあまりにも考慮していない。4ページ目にして早くも最低かつ下劣な内容である。

トイレ以上に困惑したのが謎の”鳥”である。
あらすじを読んでいて、その唐突さから「コイツ誰?」と思った選評読者もいるだろう。これは選評のミスではない。本編からしてそうなのだ。
作中の描写を見る限り、こいつはキュータという名前で「明智の相棒のしゃべる鳥」「語尾にポを付けてしゃべる」という、マスコットキャラのような立ち位置らしい。
だが、新聞社員たちと違い、こいつに対する説明は一切存在しない。プロローグの7ページ目で唐突に登場し、さも最初からいたかのように扱われ、何の説明もないまま話が進行するのである。
考えても見てほしい。もし『まどか☆マギカ』を見ていて、第1話からQBがまどかの隣を歩いていて、周囲の人物が何のためらいもなく受け入れていて、そのくせ彼の素性に対する説明が一切されないとしたら、視聴者は何を思うだろうか。
この漫画は、物語の導入で最低限行うべき説明すらされていないのである。

そして、純粋に不快なパワハラ描写。
涙目になっている新入社員を「アホ」呼ばわりした挙句、オッサンが無理やり大仕事に行かせる構図はイジメにしか見えない。おそらく、ギャグシーンのつもりで行っているのだろうが、面白さに直結しておらず、少し不愉快である。
本作はこのようなギャグを何度もしつこくかましてくる。何の意味も無く無視される丸山もそうだが、本作のギャグシーンは「人物を悲惨な目に合わせればギャグになる」という安直な発想の元で描かれている。
プロローグの時点では許容できたとしても、本作のパワハラ描写は読み進めるとさらにひどくなり、第一次世界大戦のあたりでピークを迎える。

そもそも、理不尽な目に合うまでの過程も強引である。
社運を賭けた大仕事のはずなのに、なぜ歴史の苦手な新入社員に任せるのか。他の社員は忙しいらしいが、歴史観が変わる仕事より優先するほどの事が他にあるのだろうか……。
整合性を無視してでも面白さを優先するのは、創作に置いて定番の手法である。だが、整合性を無視してまで不快な描写にいそしむ漫画はそうそうない。

以上が、プロローグ時点で垣間見える問題である。
上記の問題はまだ「商業誌」「学習漫画」の範疇に収まっている。
本編を読み進めると、商業誌としても学習漫画としても失格と呼べる問題点が次々と明らかになる。


●本編の問題点
9ページに渡るプロローグを終えると、明智が幕末の厠から飛び出すシーンから物語が始まる。
このページからは明智+キュータ+社員の3人でペリー来航以降の日本の歴史が丁寧に解説されていく。

さて、読者は何故学習漫画を買うのだろうか。それはもちろん、ただ参考書を買うよりずっとわかりやすいからだろう。
活字が苦手な学生にとって、わずかな図解と文章ばかり淡々と載せられた学習参考書を読むのは大変である。
一方、歴史の出来事が漫画形式で描かれると、いつどこでだれがなにをしたか(5W1H)がハッキリし、すんなりと頭に入るようになる。文章にキャラクターの動きやイラストを付け足すだけで、わかりやすさは急上昇するのだ。
学習漫画は、文字が苦手な学生にとって救世主とも呼べる存在である。

だが、この漫画は違う。
本書を購入した読者は読み進めるにつれ、内容が頭に入ってこないことに気付くだろう。
学習漫画にも関わらず、作画担当がロクに仕事をしていないのだ。

まず、ページ全体を絵が占める割合が異様に少なく、4~5割が活字とフキダシで埋まっている。『サムライ8』の第1ページや、『名探偵コナン』の文章量が酷かった回(ネットでよく貼り付けられるアレ)を想像していただけるとわかりやすい。文字が苦手な人なら見るだけで悲鳴を上げたくなる状況である。これでは、何故活字を避けて学習漫画を読みに来たのかわからない。

わずかなイラスト部分にも問題がある。
画面の大半は解説する人物の顔アップが占めている(いわゆる顔漫画と呼べる状態)。背景には全くと言っていいほど何も書かれておらず、色とりどりのスクリーントーンを貼り付けて誤魔化しているコマが多い。背景の殆どはスクリーントーン一色の空間である。かの『Sporting Salt』や末期の『幽☆遊☆白書』さえ、登場人物がどこで何をしているかイメージすることは可能だったが、本作は時としてそれすらも許されない。


要するに、歴史のワンシーンが何一つ伝わってこないのである。例えるなら、5億年ボタンの空間をバックに、歴史参考書を朗読する人物を延々と見せられている感覚に近い。本書から適当なページを抽出し、フキダシの写植を全部取り除いたとしたら、どの時代を扱っているのか判別できないだろう。これでは教科書を読むだけで十分であり、学習漫画としてのアドバンテージが何一つ見いだせないのだ。

ただし、いちおう学習漫画らしく、コミカルにデフォルメされた人間による図解がちょこちょこ挟まる。
例)
・日本人が日本列島の上に立って「鎖国」と書かれたプラカードで外人をはねのける
・清が列強に負けたシーンを解説する際、中国っぽい帽子をかぶった人が泣いていてその上に「敗北」と書かれている

だが、これらのデフォルメ図もかなり雑である。カギ穴型のシルエットに口と目と最低限の特徴(上記の場合は中国っぽい帽子)を付けただけで、デッサンの概念も皆無。早い話が、社会科の先生が黒板に書くようなテキトーなデフォルメ人間に近い。その様はまるで、古き良き2ちゃんねるのAAキャラクター(モナーやショボーンなど)による寸劇を見せられている気分である。しかも各ページにつき1~2コマはこんな雑な図解でスペース稼ぎを行っている。高校生の社会科ノートなら許されるが、学習漫画で許されるクオリティではなく、とてもプロの仕事とは思えない。
先ほど「教科書で十分」と書いたが、まともな図解や写真・肖像画を掲載している点では教科書の方が上である。

構図もかなり見づらく、読むだけでカロリーを奪われていく。「目立たせたいものとそうでないもので大小を分ける」「視線誘導を意識する」といった、デザイン上の工夫は一切無い。
全部の被写体(フキダシや登場人物)がほぼ同じ大きさで描かれているので、視線をやるべき位置がわかりづらい。
セリフの位置は右上+左下というワンパターンな物を執拗に繰り返しているので、文字の位置をジグザグに追わなければならず、読みづらい。
もちろん、教科書は左から右に、上から下に文字を追えばいいので、そんな苦労は存在しない。

いかがだろうか。
本書を学習漫画として見た場合、教科書や学習参考書の下位互換なのである。

漫画がついてくる分、教科書よりも緩い気持ちで取り組める……と好意的に見る人もいるだろう。残念ながら、この点も否定させていただきたい。
プロローグでも触れたように、本書は不愉快なギャグシーンが多く、漫画のクオリティも極めて低い。読み返す気が失せるため、”学習漫画”の”漫画”の部分が足を引っ張っている。

本編に入ると、デッサンの崩壊が嫌でも目に入る。
とりあえず、「下手な絵は許せない」という意識の高い人にとっては、読むことがオススメできない。
流石に『ママとの甘い生活2』には敵わないが、『ダイナミックコード』あたりなら十分タメを張れる酷さである。第1章にあたる「テーマ1」だけでも以下の有様である。
・目の位置が不自然に広がっているなど序の口で、ハイライトすらロクに入っていない。
・Gペンで書かれたと思しき線が所々掠れていて、つけペンに使い慣れていない様子がうかがえる。身内に見せるならまだしも、商業誌の水準には達していない
・プロローグで紹介した「キュータ」は立体感ゼロのモップが浮いているような生命体である。黒目がやたら大きくハイライトは書かれていないので、じっと見ていると恐怖を感じる(画像検索で出る「ケロマツのぬいぐるみ」を想像していただけるとわかりやすい)。集合体恐怖症の読者は割と注意が必要である。
・29ページからは、薬きょうの付いた弾丸がやる気無さそうに「バーン(小さい細字)」「バーン(小さい細字)」と等速直線運動で飛び交っている。躍動感は一切感じられず、突っ込む気力すら起きない。
・「ああ!新選組の土方歳三だ!」幕末志士がさも美少年っぽいオーラで登場するが、デッサンが崩れすぎてブサイク。「目の位置は顔の中間」という基礎中の基礎すらできておらず、頭蓋骨がやたら小さい。

「学習漫画だし、絵が下手なくらいよくね?」
そんな人を振るい落とすのが、シナリオ方面である。
先述の通り、本作は「登場人物を理不尽な目に合わせればギャグになる」という安直さが垣間見えており、不快感がにじみ出ている。

主人公の明智は新入社員にも関わらず、無理やり専門外の取材を強行させられている。当然、ロクな取材ができるはずもない。挙句、銃弾が飛び交う戦場に駆り出されたり、坂本竜馬の暗殺未遂現場に巻き込まれたりもしている。
あろうことか、上司の権田はそんな彼女を役立たず呼ばわりし、罵声を浴びせたり無理やりトイレ(タイムマシン)に放り込んだりと、傍若無人の限りを尽くしている。まともな取材ができないのは最初から分かり切った話であり、仕打ちとしては理不尽でしかない。こんな上司にキャラクターとしてどう好感を抱けというのだろうか。というか、ロクな人員が無いなら最初からこんな取材検討するなよ……。
幕末の勉強をするたびに、こんな不快なシーンを何度も読み返さなければならないと思うと、足かせにしかなっていない。やはり、学習参考書を繰り返し読んだ方がマシだろう。

酷いパワハラを受ける明智だが、彼女に同情ができるかどうかは全くの別である。
彼女もまた取材を無視して私用の写真を撮影したり、上司の前で居眠りしたり、仕事中に電話に出てスクープを撮り逃したり、仕事中にビールを飲んだりするなど、社会人失格な描写が次々と描かれ、魅力の薄いキャラクターとなっている。結果、この漫画は誰一人として感情移入ができない。
(クズなキャラが理不尽な目に合うのは因果応報に思えるかもしれないが、彼女の場合はクズな部分と無関係な場所で理不尽な仕打ちを受けているため、何のフォローにもなっていない)

そうしてヘイトが募る中、読者の苛立ちをより高めるのが「牛鍋屋」の下りである。
罵声と共にタイムマシンに放り込まれた明智が付いたのは、文明開化後の日本。明智は、満面の笑みで牛鍋屋に入り、食べようとする。
そこに仁科(冒頭に出た社員の一人)が割り込み、歴史の解説を始めるので、明智は牛鍋を食べ損ねてしまう(なお、この時仁科は「終わったら食べてヨシ」とも発言している)。
3ページに渡る勉強のあと、明智は目を輝かせて、いよいよ牛鍋を食べようとする。だが今度は丸山(最初にシカトされてた社員)が現れ、「勉強の続きがある」と言って食べるのを阻止する。
この時点で、「あぁ、結局最後まで食べられないオチが来るの?」と予想できてしまう。同時に「無駄に理不尽な目に合わせてこの漫画何がしたいの?」と、理不尽ギャグのしつこさに単なる苛立ちを感じる事となる。
その後、次々と妨害が入って牛鍋を食えるかどうかを16ページに渡り引っ張り続ける(オチがうすうす解り切っているのに)。挙句、社員どころか横にいた福沢諭吉にまで妨害され、結局一口食べたところでその場を撤退させられるというオチがつく(なお、撤退を命じたのは例によって権田)。さんざん引っ張った挙句食えないという、純粋に後味の悪いシーンとなっている。

この手のギャグは定番で、『少年アシベ』『おジャ魔女どれみ』等でも使われている。だが残念な事に、本書の場合は全く笑えない。先に主人公が散々理不尽な目に会っているので、「またこれか」という倦怠感が強まり、逆効果になっているのだ。おまけに、「食べて良い」と明確に約束されたのが反故されているので、尚更理不尽である。
牛鍋の下りで19ページ引っ張ったことになるが、これは少年ジャンプの漫画で1話に割かれるページ数であり、読者がためるフラストレーションも大きい。


ここまで漫画部分のひどさを述べてきたが、学習参考書としての構成にも問題がある。
本書は要所要所で説明の順番が前後しており、読者の混乱を引き起こしやすい。
例えば、30ページ (先述した、やる気のない弾丸が飛び交うシーン)は以下のように説明がされる。
「この戦争は禁門の変と呼ばれるものです。会津と薩摩を主力とした幕府軍と長州軍の戦いで、京都御所の蛤御門での戦火がもっとも激しかったので別名『蛤御門の変』ともいわれています」
「なんで戦っているポ?」
「あぁ、いきなり説明されてもわからないですよね。では幕府がハリスと通商条約を結んだあたりから説明していきましょうか」(以下、禁門の変に至るまでの解説を3Pに渡り展開)
このように、「明智たちが歴史の名場面に移動する」→「事件が描かれて名称を解説する」→「なぜそれが起きたのか後から解説する」という回りくどい説明が頻繁に見受けられる。

なお、同じ監修者が担当した他のシリーズでは、このような問題は起きていない。やはり、漫画部分の担当者に大きな問題があるようだ。


先述の通り、本書の作画は褒められたものではない。しかし、テーマ2に入ると、作画のクオリティがさらに低下する。

まず、牛鍋の下りから背景の空白が目立つようになり、トーンによる誤魔化しすら減ってくる。
手の書き方や体のバランスはガタガタであり、岩倉使節団を見ていると福本先生の黒服がマシに見えてくる。

73ページは初見時に目を疑った。
どうみてもインク汚れにしか見えない汚れが放置されているのである。これは26ページと27ページに書かれたイラストをコピペした回想シーンなのだが、カケアミがぼやけていて薄汚い物になっている。
そもそも、一目では回想シーンだとわかりづらく、コピペすらまともに行われていない。
(なお、コピペした内容は先述のテキトーなデフォルメ図。すぐ書き直しが可能なので、わざわざコピペする意味があったのか疑問である)

続いて76ページ。西郷隆盛のいる鹿児島に移る場面。
旅人らしき人影(0.8mm四方に収まりそうなサイズ)の周りに「ボロ」「ボロ」と擬音が書かれている以外は山影しか見えない(建造物などの背景はもちろん、雲すら描かれていない)。それを見た明智とキュータが「ひどい状況ね」「一体何があったポ?」と発言。
正直に言って、何がどう酷い状況なのか、絵面からは全く伝わってこない。読者が見たのは、黒い服を着た人たちがシルエットしかない山をバックに地面に手を付いている様子だけである。

78・79ページに至っては、作画が完全に仕事を放棄している。
全12コマのうち、歴史に関するイラスト(例によって先述の雑デフォルメ)が4コマしか描かれていない。残りのうち2コマは効果線・カケアミでごまかしているだけで文字以外何も書いておらず、残りのうち2コマに至っては文字以外何もかもが描かれていない。
冨樫が半日で16ページ描いた時の幽白の方がまだ書き込まれているレベル。これを学習漫画とみなしていいのだろうか。


様々な問題に触れてきたが、それらが複合した本書最悪のシーンの一つが111ページの「平壌の戦い」である。

場面が移るなり視界に広がるのは、真っ白な背景にトーンを張り、上から砂消しをかけて戦火っぽくしたものに「ゴォォォ」というやる気の無さそうな擬音が書き足された光景。これを見たキュータは言う。「わー!戦争してるポー!」

真っ白な背景にトーンを張り、上から砂消しをかけて戦火っぽくしたものに「ゴォォォ」というやる気の無さそうな擬音が書き足された場面を指して「戦争をしている」と言い張るのは、読者に想像力を求めすぎではないだろうか。
この1コマのインパクトはすさまじく、隣のページに描かれた豚の丸焼きっぽい何かだとか、横顔なのに平面になっていない丸山のメガネとかがどうでもよくなるレベルである。

そしてこちらも「禁門の変」同様、説明の順番が前後する。
18年前の「日朝修好条規」に説明が遡り、「平壌の戦い」が説明されるのは3ページも後(もちろん、この間の説明は例によってイラストが雑。それどころか、ジョルジュ・ビゴーの風刺画を超適当に省略して描くという、学習漫画として信じがたい光景が見られる)。
また順番が前後した関係で、「平壌の戦い」⊂「日清戦争」である事が一切説明されないという、誤解を招く状況になっている(漫画だけ見ていると、これらが別の戦争のように見えてしまう)。

作画・解説と来てストーリー面も最悪。
まず、戦地に行かされると聞いた明智は悲鳴を上げる。命の危険と隣り合わせなので当然の事だろう。
それでもスクープを取りに行こうとするのだが、転倒し、カメラを落としてしまう。その上、敵軍からの反撃が入り、爆発に巻き込まれそうになる。明智はカメラを拾おうとするも「ここにいちゃ危ない!」と丸山に制される。明智はやむなくカメラを置いて、一同は命からがら逃げだすのであった。
ここまではいいのだが問題はその後。
戦地から帰ってきた明智に対し、権田はねぎらいの言葉をかけるどころか、なんとカメラを無くした件をしつこく攻め立て始める。劇中の描写を見る限りカメラの紛失は完全な事故であり、そもそも専門知識のない新人記者を戦地の前線に行かせている現状が狂っているのだが、完全に悪者扱い。「カメラをなくすような奴が、カメラの才能なんてあるわけないよな?」とまで言い始める。
読者が唖然とするであろう描写ののち、ページをめくると説教が続く。
「すいましぇーんじゃねーんだよ!なんで1円も稼いでねー新入社員がカメラをなくして損害与えてんだ!」
……この局長クビにすべきではないだろうか。労働組合に駆け込む案件では。というか取材を記事にしているので「1円も稼いでいない」は大間違いである。権田はこの後「戦地だから多めに見る」とか言い出すのだが、どこから突っ込んでいいかわからない。そもそも怒る事がおかしいだろ。

考えても見てほしい。大学合格を夢見て勉強する高校生たちは、第一次世界大戦を復習するたびに、この理不尽で不可解で不愉快なやりとりを見なければならない。繰り返し読むことを前提とする学習漫画において、不快な描写の影響力は一般的な漫画の数倍に値するのである。


説明の順番が前後する件だが、さらに不可解な例がある。
125ページにて、「ポーツマス条約締結後の喧噪な時代に移動する」→「ポーツマス条約の説明をする」→「日露戦争まで遡り2ページに渡り解説を始める」というシーンがある。
これについては直前で「日清戦争後の日本」を解説する場面があるため、何故そこで日露戦争の解説を先にしなかったのか疑問。間に「日本初のビアホール誕生」という無関係な要素も差し込まれ、解説がもうめちゃくちゃである。というか、この参考書は「政治経済」と「文化」の説明を分けておらず、一緒くたに説明しているのか……。
なお、本書は他のマンガゼミナールと比べ、章の数が異様に少ない(他は4~7章程度あるのに、本書は全2章)。構成面でかなり特殊な(おそらく煩雑な)裏事情があったと推測される。

そして、ポーツマス条約のあたりから作画がさらなる退化を遂げる。
この辺になると下書きをしているか怪しい描写がぽつぽつと見られており、丸山の頭蓋骨が『ブラック・ジャック』の無頭児がごとく消失したり、明智の肩幅が超細身になったりと、惨憺たる有様に。ジョッキのビールが飲んでも全然減らないのは、もはや些細な事である。
先端がガタガタになったGペンを酷使しているらしく、絵の線が原稿用紙に染み出していたり、直線が多用されたりと、つけペン経験者なら違和感に気付くレベルの作画が展開される。
デフォルメはさらに劣化し、背景はもちろんモブキャラの顔すら描かれない。国会議事堂などは背景資料をトレスして正しく描かれているので、周囲のコマとの違和感が半端ない。その手抜きっぷりは、連載末期の『星のカービィ デデデでプププなものがたり』を想起させる程である。

おわかりいただけただろうか。
この作画担当は単に下手なだけではない。
作業を進めるにつれてやる気を無くし、明らかに杜撰な仕事をしているのである。
冒頭で『ママとの甘い生活2』より作画がマシと言ったが、あちらはイラストレーターに逃げられた背景があり、少なくとも誠意をもって仕上げていたのは確かである。


極めつけが156ページ。
米不足の説明において、信じられない物を目にした。
右下のコマには書き文字で女性のセリフが描かれているのだが……

「えー、お■ないの」
     米
※実際の漫画は縦書き

一瞬目を疑った。■の部分は「金」という文字を黒く塗りつぶしていて、その横に「米」と描かれているのである。
選評を読んでいる読者諸兄に確認したい。誤字をメモ帳のごとく塗りつぶし、それを商業誌に掲載した作品がかつてあっただろうか。
いや、同人誌ですらこのような手抜きに及んだ作者がいただろうか?
「大奥記」の誤植を彷彿とさせるが、あちらはチェックミスとケアレスミスの結果であり、怠惰によって意図的に行われたものではない。
信じられないことに、選評筆者が手に取ったのは10年近く増刷されている書籍である。その中の杜撰なミスがこうして放置されているのだ。
原稿を落としかけてネームや下書きを提出する漫画家は数多くいても、誤字を塗りつぶして提出した作家は聞いたことが無い。これを超える伝説があれば、是非とも教えてほしい。

ミスの放置はこれだけではない。周辺のページを探していくと、次々とミスが見つかった。
まず伊藤博文が索引に載っていない。
163ページでは、左上の章分けが誤って描かれている。「第1章 6」とするところが、「第6章」となっている。
そして165ページ。権田が虚空を指さし「この3つの言葉の意味はわかるか、ちょっと説明してみろ」と発言。何も書いていない空間を指して発言する様に一瞬混乱したが、すぐ左のコマに目をやると明智が「富国強兵」「殉産工業」「文明開化」を解説している。どうやら、謎の空間には「富国強兵」「殉産工業」「文明開化」が写植されているべきなのに、それが為されていないのだ。
174ページではキュータにトーンが貼られていないが、もはやこの程度どうでもいい。ここまでたどり着くころには読者の感覚もマヒしている。

この後は第2章に移るが、変化が訪れる。
選評で指摘してきた不快なギャグが一切無くなるのだ。
また、1章終盤からは時代を生きた人たちのヒューマンドラマが描かれるようになり、権田の性格も改善されるなど、大胆なテコ入れが図られる。読者が内心ツッコミを入れていたであろう、労災がらみの話題まで自虐ネタとして挿入されている。
経緯はわからないが、よほどの酷い内容に関係者がフォローを入れてくれたのだろう。

だが、本書はKOTY候補である事を忘れてはならない。
『四八(仮)』のゲストシナリオが面白くてもクソゲーである事には変わりないように、このてこ入れは「焼け石に水」である。
残念なことに、シナリオの改善に反比例して作画はさらなる劣化を重ねていく(いずれにせよ、繰り返し読む前提の学習漫画に置いて「終わり良ければ総て良し」とするのは誤りだろう)。

背景の空白率は上昇し、下書きなし疑惑のコマはさらに増加。
国会のシーンを見た後なら、ジャンプ掲載時のキメラアント編は芸術作品に見えるだろう。椅子が全然ないし、モブは適当だし、喧噪が見られない。
203ページの権田は完全に魂を抜かれている。性格の改善から察するに、パワハラ上司としての悪い魂が浄化された結果に違いない。例によって怖い目のキュータが「自決?切腹ポ?」と言い出す1コマは、なんだか夢に出そうである。
相変わらず歴史の流れは全然頭に入ってこないし、本書が学習参考書であることを忘れそうになる。

誤字の塗りつぶしがピークと思いきや、まだ伝説は終わらない。207ページからは期待を裏切らない杜撰さをかましてくれる。

このシーンからは、第一次世界大戦後の「とある事件」が解説される。
「じゃあ、さっそく取材に行け」権田はそう言いながら、明智に半分切ったスイカのような何かを被せる。
「はーい……へ?」という明智のセリフが入るが、その上に「なんでヘルメット?」という書き文字がされている。どうやら権田が被せたのはヘルメットのようだ。
なお、このヘルメットらしき物体にフチや頭部の起伏は一切無いし、頭に固定するヒモも見受けられない。解説が無ければ、単なる帽子にしか見えないだろう。また、上述の描き文字はサインペンで汚く描かれている。

つづいて208ページに進むと、1923年の9月1日・東京に舞台は移る。ここで、察しの良い人は「あぁ、関東大震災の取材に行くからヘルメット(のような何か)を被せたのか」と理解する。日本史を知らない人でも、引き続きヘルメット(のような何か)をかぶり続けているのが目につくだろう。
ただ、地震がすぐに描かれるわけではない。まずは労働争議の解説が1ページ使って描かれる。左下に描かれた鈴木文治の似顔絵は、遺族が怒っていいほど適当であり、否が応でも目に焼き付く。そして209ページの上部に目をやると、明智と坂本が会話するシーンが描かれている。

そして読者は刮目する。明智が被っていたヘルメットが無い。いうなれば消失バグである。
209ページには明智が4回描かれているのだが、前のページまでかぶっていたヘルメットは何事も無かったかのように消失している。単なる一度きりの作画ミスではない。この作者、ヘルメットを書き忘れた挙句に悪びれもせず、そのままお話を進め始めたのだ。

そして210ページにて、関東大震災が発生。本来ならここでヘルメットが意味を持つはずだったのだろうが、一切言及されない。あわれ、ヘルメットのような何かは存在を完全に抹消され、その後も触れられることは一切無かった。
ここまで清々しい開き直りは、『キン肉マン』以外で見た事が無い。ヘルメット状の何かを被るシーンがたとえ鮮烈に読者の記憶に残っていようが、この漫画はお構いなしである。

虎ノ門事件のシーンはツッコミどころが多すぎる。
まゆたんの「世界一腕の立つ殺し屋」はネタシーンとして有名だが、本書は銃の知識以前の問題である。虎ノ門事件のシーンにおいて、難波大助は先端が折れたペンライト状の何かで天皇暗殺を試みた。銃身が明らかに短く、10センチくらいしかない。
というか、気になって虎ノ門事件の事をネットで調べたところ、本書を見返して愕然とした。サンタクロースのように白いひげを生やしたこいつは絶対難波大助じゃない。頭もハゲてるし、明らかに別人である。使用している武器もステッキ式散弾銃には見えないし、史実に反して遠距離から狙撃している。これは間違いなく歴史的な新事実なので、明智は写真に収めるべきである。漫画担当者が難波大助を知らずに書いたなどといった、取材不足では決してない。そういう事にしてあげてほしい。
なお、選評筆者は日本史に詳しくないため、他にもこのようなミスが無いか情報を求む。

その次のページはとうとう、冒頭で比較対象とした『透明なゆりかご』をも下回った。この作者は長方形すら描くのをあきらめた。ゆがんだ四角形のプラカードを群集が振るっている。

216ページに描かれた立憲民政党のポスターはもはや高度な現代アートに近い。
あまりに適当なデフォルメをした結果、何一つ面影が残っていない。これでアスキーアートを作ったなら、四八マン・やるオプーナに代わるKOTYのシンボルとなるかもしれない。

五・一五事件は、ネーム自体は悪くない。犬養氏の最期が大変ドラマチックに描かれている。
だが、作画が雑過ぎて名状し難い。内容にテコ入れが図られたのに、作画が台無しにしている事を痛感するシーンである。
ここで力尽きたのか、3ページ後の二・二六事件は作画の悪化が著しくなる。明智が過激派に連行されるシーンでは雑なパースがかけられ、『Dance Mania』のパッケージがごとく左手が超巨大化。
その3ページ後には岡田総理暗殺シーンが描かれるのだが、先ほどの五・一五事件と同じ人が書いたとは思えないほど雑。
「撃て!」パァンパァン
「うわぁぁ!」(総理の首から下が描かれず、中途半端に青ざめた顔だけ描かれている、その下は例によって真っ白なコマに説明が書かれているだけ)
その下の3コマは、原稿を落とした週刊連載漫画とみまがうくらいに最悪の内容。素人が1分で描いたような事件関係者(斎藤・高橋・渡辺)の似顔絵が描かれ、隣の演説シーンのコマは江川達也の仮面ライダーを彷彿とさせる有様(この選評の中で、絵が下手な漫画と手抜きな漫画の名前があらかた出尽くしたのでは……そろそろネタが無い)。最後は明智・丸山・キュータの小さなイラストが不自然に拡大コピーされたものが貼り付けられている。もし表紙にこの3コマを載せていたら、誰もこの漫画を買わないだろう。

作画は落ちるところまで落ちたが、ネームはまだまだ酷くなる。
「親日の新国民政府を樹立して、中国大陸の支配を既成事実化するためだ。その後、近衛内閣はこの戦争の目的は東亜新秩序建設にあるという声明を出した」
「この戦争の目的は、『日本、満州、中国の3か国が結束して新しい秩序をつくるため』だとしたわけですね」
この文章を読んで、実際の漫画には歴史と何の関係もないラーメンだけが描かれていると言われたら信じるだろうか。残念ながらそうなのである。
このパートでは、第2次世界大戦時の世界が解説されるのだが、場面は「明智がチャーシューメンを食べながら講義を受ける」というもの。だからといって、こんなもん見せられてどうしろと言うのか。普通、東アジアの地図とか近衛首相の絵とか出すべきだろ。絶対おかしい。なお、ラーメンが描かれているが背景は一切描かれていない。
次のページに至っては、認知症の画家が描いた自画像みたいな権田が真っ先に現れる(意外と比喩表現のネタは尽きないらしい)。

「落ちるところまで落ちた」と書いたが、選評執筆中に本書を読み直して訂正の必要が生まれた。ラーメン以後、作画がさらにひどくなる。
ここからの数10ページは背景も殆ど描かれず、デッサンの概念がほぼ消失。キャラクターを描く線はガタガタで、この漫画の作画崩壊は止まるところを知らない。
「平壌の戦い」を最悪のシーンの一つと書いたが、作画に関してはもっと下がある。
真珠湾攻撃のシーン、「たくさんの軍艦があるポー」というセリフがあるのに画面には戦艦どころか砂浜や基地すら一切描かれていない。描かれているのは戦艦を見つめるキュータ達一同である。ここまで開き直った手抜きをされると、もはや神の領域に足を突っ込んでいないだろうか。手抜きの神。

誤字塗りつぶしにヘルメット消失バグと来て、もうこの手のミスは無いだろうと思っていると、まだ見つかる。
「代わって開戦を主張する東条英機陸軍大臣が、後継総理の座につきました」
「ハルノート?」(春NOTEと描かれたノートを持って驚く明智)
「そんなとき、アメリカからハルノートが日本に突きつけられます」
説明されるより早く、『スーパーマリオくん』ばりのボケをかます明智。
構図のせいで順序がおかしく見える、とかではない。完全に順番がズレこんでいるのである。ボケの部分は書き文字、他の部分は写植なので、作画と写植のすり合わせでミスしたのだろうか。だとしても、何故このような齟齬が発生したのか不可解極まりない。
なおこのページの問題はこれだけではない。「明智のセリフのフキダシの位置がおかしく、丸山がしゃべっているようにしか見えない」「丸山のメガネが遠近法を無視し、手前側のレンスが大きくなっている」と、何もかも破綻している。

……もういやだ。
選評を描く方も限界である。
この後も「順番が前後した挙句7ページも後になってようやく結論にたどり着く解説」「どうやって持っているのかわからない箸の持ち方」「結局、回復することのない画力」と、語れることは多い。しかし、この破綻を書き上げる体力は筆者に残っていない。いつの間にか、背景をごまかすためのトーンすら貼られなくなっていたことに後から気づいた。慣れとは恐ろしい。
戦争をめぐる家族のサブストーリー、明智が成長を認められて締めくくられるラストなど、褒める箇所もあるにはある。しかし、あまりにもやる気の感じられない作画を前に、そうした感動はことごとくぶち壊しである。
白く塗りつぶされていく退廃的な世界、真剣に解説したら頭がおかしくなりそうである。
本作の作画を表現する言葉は、もう残っていない。いまだ増刷されている本書は書店で簡単に手に入るので、どうか自分の目で確かめていただきたい。


●総評
学習漫画は参考書であって、漫画のクオリティは二の次である。当然、そこに求められるハードルは低い。そのハードルを下回る作品がこの世には存在すると言われたら、信じる人がどのくらいいるだろう?

本書は学習漫画として落第点である。手抜きにもほどがある作画からは、表紙から想起させる激動の瞬間は何一つ伝わってこない。不愉快な漫画部分・読みづらい構成を踏まえると、はっきりいって教科書の下位互換である。
魅力的な表紙から手に取って、中から出てきたのがこれだとしたら、受験にいそしむ高校生たちは何を思うだろうか。
・4ページ目からドン滑りしてる下ネタ
・何の説明も無く唐突に登場する鳥
・新入社員を戦地に送り込むパワハラ上司
・止まるところを知らない作画崩壊
・目が死んでる鳥
・薬きょうが付いたままやる気無さそうに飛ぶ弾丸
・「ああ!新選組の土方歳三だ!」(ブサイク)
・胸糞エピソードの牛鍋屋
・スクリーントーンを平壌の戦いと言い張る鳥
・誤字を塗りつぶす
・上司にだけ見えている3つの単語
・「自決?切腹ポ?」( (●) (●) )
・魂を抜かれたパワハラ上司
・ヘルメット消失バグ
・虎ノ門事件には真犯人がいた説
・現代アート「立憲民政党ポスター」
・二・二六事件の全て
・ラーメンを見せ続けられる東亜新秩序建設
・「戦艦が沢山ある」と言ってるだけのシーンを真珠湾と言い張る作者
・ハルノート
・本題に入るまで7ページも待たされる解説

もしかすると、本書は『デスクリムゾン』がごとく「愛すべきクソ」かもしれない。
突き抜ける点が多いと、むしろ愛おしさすら感じられる。
事実、選評筆者が読んだシリーズ作品の中で、本書は間違いなく思い入れの強い一作となっている。

巷では、ジャンプしか読まないような読者が『サムライ8』『魔女の守人』などをさも「最悪のクソ漫画だ!」と囃し立てる様子を見かける。
言わせてもらえば、これらを推す人間は『ジョジョASB』『テイルズオブゼスティリア』を業者KOTYに持ち込む人間と変わらない。週刊少年ジャンプに載る時点で、一定の水準など保証されているのだ。
もし読者の周りに、『サム8』『魔女の守人』叩きに執着するキッズやまとめ民がいたら、本書を読ませることをお勧めする。本書はクソ漫画界の「門番」である。本書を読まずして、クソ漫画を語る行為は慎むべきだ。


●補足
この選評は、2017年に発行されたものを参考にしています。
今から書店で買い求めた場合、修正されている可能性があることをご理解のほどお願いします。

「マンガゼミナール」は今でも書店でたやすくお求めいただけます。
誰でも気軽に検証参加できるため、コロナ禍と関係ない地域の方は本屋に寄ってみるのもお勧めです。新たな選評・反選評、はたまたこれを超えるKOTY級の何かがあったら、選評をお待ちしております。

また、他の「マンガゼミナール」シリーズにこのような問題点は無く、学習漫画としては通常通り使用できることを強調しておきます。

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